大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(う)63号 判決

道路交通法七二条一項後段所定の報告義務は、道路における危険の防止その他交通の安全と円滑を図り、かつ道路の交通に起因する障害を防止するという同法の目的(同法一条参照)を達成するため、交通事故を発生させた車両等の運転者に対し警察官にその事故の内容等を報告すべきことを義務付けたものであるところ、同条項が警察官が現場にいるときは当該警察官に報告しなければならたい旨規定し、警察官が交通事故の現場に居合わせその事故の外形的状況を現認していると思われる場合にも報告を義務付けていることをも考慮すると、右報告義務は、個人の生命、身体及び財産の保護、公安の維持等の職責を有する警察官に一応すみやかに右条項後段所定の各事項を知らしめ、負傷者の救護及び交通秩序の回復等について当該車両等の運転者の講じた措置が適切妥当であるかどうか、さらに講ずべき措置はないか等をその責任において判断させ、もつて、前記職責上とるべき万全の措置を検討、実施させようとするものであり、かつそのために交通事故が発生した場合車両等の運転者に特段の除外例を定めず、一律に、右義務を課したものと解せられるから、(最高裁判所判決昭和四八年三月一五日、刑集二七巻二号一〇〇頁、同決定昭和五〇年二月一〇日、刑集二九巻二号三五頁参照)物の損壊の程度が軽微で直ちに交通秩序が回復され、道路上の危険も存在しないため、警察官においてそれ以上の措置をとる必要がないように見られる場合であつても、なおかつ、交通事故を起した当該車両の運転者は右各事項の報告義務を免れるものではないと解すべきところ、本件についてみると前記関係各証拠によれば、被告人は、車道部分約三・四五メートルの本件道路を時速約五〇キロメートルで進行中、進路前方左側に同方向に一団となつて進む約一〇名の歩行者を認め、これを避けようとしてハンドルを右に切つたところ、道路右側路肩の段差部分に右前輪を乗り入れて自車の操縦の自由を失い、本件事故現場手前の駐車場入口の鉄柱七本を倒したほか原判示の街路灯及び道路反射鏡各一本の各支柱部分に次々に自車を衝突させ、右街路灯等を左傾させる等して損壊するとともに自車前部も大破させる交通事故を起し、付近の電柱等に衝突して停止した自車から降りて右事故を確認した後再び国領方向に向つたが右前輪が外れて走行できなくなり本件事故現場から約一〇〇メートル離れた幅四・七メートルの道路左端に自車を放置したことが認められ、右事実によれば、本件事故は道路交通の危険を防止するために設置された街路灯や道路反射鏡を損壊したもので、まさに交通秩序に混乱を与え、その回復のための措置について警察官の検討を要する程の重大な交通事故であつたことが認められるから、被告人に前記報告義務の存したことは明らかである。

そして道路交通法七二条一項後段は前記交通事故の報告について、警察官が現場にいないときは「直ちに」もよりの警察署の警察官に報告すべきものと規定し、同報告はその交通事故が発生してから短時間のうちに、すなわち「すぐに」しなければならたいとされているところ、前記関係各証拠によれば、被告人は、前記のとおり一旦自車から降りて本件事故を確認したうえで再び自車を発進させ、その場から約一〇〇メートル進み自車が走行不能となつてからは七、八〇〇メートル離れた自室まで歩いて帰り、他から一一〇番通報を受け現場に急行し、タイヤを引きずつた痕跡をたどつて破損し放置してある被告人の本件乗用自動車を発見し、登録番号を照会して所有者の被告人名を知り被告人方居室に赴いた警察官に質ねられて本件事故を供述したことが認められるから、被告人には前記報告を直ちに行わなかつた違反があることも明白である。

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